パニック障害克服体験記

以前パニック障害でカウンセリングを受けておられた方が、ご自分の体験記をくださったので、ご紹介します。
もしパニック障害を発症して、成す術がないと思って絶望的な気持ちになっている人がいたら、ご自分の体験を語ることで、良くなる可能性があることを伝えたいそうです。

カウンセリングの終了時に、このように言ってくださる方は結構いらっしゃいます。
前回のコラムで「どうぞのいす」をご紹介しましたが、それと似ているように感じて嬉しくなります。
自分が良くなったら、他の人の役に立ちたい。
絶望する必要なんてないのだと伝えたい。
こんなふうに、誰かの優しさがまた別の誰かに届いたら、私も嬉しいです。

以下、この方の体験記です。
ご本人の了承を得て、加筆修正せず、いただいた文章をそのまま掲載しております。

“パニック発作って、めちゃくちゃ怖い。
電車に乗ったら、息ができなくなるんじゃないか。運転している最中に気を失うんじゃないか。もしかして、このまま死ぬんじゃないか。

日々、そんな心配ばかり。友達と遊ぶ約束も、美容室の予約もできない。出かける前の準備が辛い。家を出るのが怖くなってくる。すると、今度は「家を出たら発作に襲われる!」と考えてしまう。さらに家を出られなくなる。思考の悪循環に落ちていく。

私は、ある日いきなりパニック発作に襲われた。
運転中、手足の痺れを感じていた。最初は「どうしたんだろう? 疲れているのかな?」くらいに考え、運転を続けた。

信号で止まった瞬間、いきなり心臓が締め付けられた。ギュッと、握り潰されるように。次に吐き気を感じる。「心臓発作!?」。パニックになった。
症状は数分で去った。体の不調はどこにもない。でも今までにない経験に、恐怖が心に残る。

それから「運転すると、またあの発作が起こるのでは」と考えてしまい、本当に発作が起こる。それを繰り返しているうちに、外が怖くなってきた。人との食事が怖くなり、スーパーのレジに並ぶのも怖くなる。

できないことが、どんどん増える。人前で吐いてしまうと、迷惑がかかる。こんな自分、誰にも知られたくない。隠さないと。それに焦って、さらに発作を誘発してしまう。安全な家以外、全てが怖くなってくる。

じゃあ何が怖いって、発作は「自分でコントロールできない」と思っているから。風邪なら、寝てれば治る。頭痛なら、頭痛薬を飲む。怪我をしたら絆創膏。そういう、確固たる対策がない。

でも、あるんです。対策。
呼吸です。それだけで、発作をほとんどコントロールできます。
十秒息を止め、三秒吸って三秒吐く。最初に吸うときに、大きく吸わない。
発作が起こるのは、息の吸いすぎなんです。
「あれ、地球から酸素なくなった?」と思わないですか、発作の時って。いくら呼吸しても、肺に空気が入らない気がする。だから余計に吸って、それが発作の原因になるんです。

私は、カウンセリングでこの練習をしました。
さらに、コラム法も行いました。
コラム法とは、自分は「どういう状況の時に」「どんな恐怖や不安を感じ」「こうなってしまうのではないか」などの負の感情を書き出します。

今度は、それに対しての反論を書くのです。カウンセラーの先生に見てもらいながら、客観的に。
「こういう考えもできる」「不安なのは、こうだからだろう」「なら、こうすることができる」。思いつく限り書き出します。

頭の中の不安を紙に書くと、もし「怖い状況」に突入しても、具体的な考えや対処法が頭に浮かぶようになります。

この二つを実践しただけで、私は車に乗れるようになりました。
「自分でコントロールできるなら怖くないじゃん!」と、急に強気になったんです。
五分も運転できなかった車が、一時間でも平気になりました。調子に乗って、あちこち運転しています。

すると、どんどんできる事が増える。食事も、買い物も。
もしそこで、また新しい不安が生まれても、コラム法です。「こういう考えはできないだろうか?」と自分で打開策を見つけられます。

「でも精神の病気って、根本的には治らない」。見えないし、皮膚に傷があるわけでもない。私はそう思ってしまい、最初は病院に行くのを躊躇いました。その間に症状が悪化していったので、もし自分で抱えきれなくなっているのなら、病院に行ってみるのも手段です。

確かに、完治は難しいかもしれない。治療は大変かもしれないし、長い道のりかもしれない。だって見えないし、傷が塞がるわけでもないし。今でもたまに、そんな考えが過ぎります。
ぽろっと言ったら、私のお世話になっている薬剤師の方が笑ってくれました。「精神病は心の風邪」と。ここでもコラム法が頭に浮かびました。

風邪って、気をつけていても引きますよね。どんなに手洗いうがいをしても、栄養に気をつけても。
でも、パニック発作はコントロールできます。発作の主導権は自分にあるんです。
そう思うと、風邪よりずっと扱いやすい奴だと感じました。パニック発作って。”

grytteでは、パニック障害の方に対しては、呼吸法、認知再構成法、曝露法とった認知行動療法の手法を用いたカウンセリングを行うことが多いです。
ただ、その方の症状を改善することだけでなく、「困難な状況に陥っても、私は何とかできる」、そんな自信を持てるようにサポートしたい。

私はいつもそう思いながら皆さんと向き合っています。