主治医と臨床心理士の連携~効果的に機能するチームという視点から~

私は最近、「チームの心理的安全性」に関する本を読んでいます。
心理的安全性というのは、簡単に説明すると「何を言っても大丈夫」とか「弱みを見せても大丈夫」と思えるチームのことを言います。

心理的安全性の高いチームは成果を出しやすいそうです。
そしてチームのメンバーは互いを尊重し、多様性があるほどイノベーションが起きやすいことも分かっています。
同じ会社で一緒に働く仲間も、社外の取引先やビジネスパートナーも「チーム」なのではないかなと思っています。

ですので、grytteの提携クリニックである横浜東口メンタルクリニックの有井先生と私も、「患者さん(被相談者)を元気にする」という同じ目標を達成するためのチームだと思っています。
今回は、主治医と臨床心理士の連携について、「効果的に機能するチーム」という視点から考えてみたいと思います。

grytteにカウンセリングに来られる方で心療内科に通っている方も多いため、必要な時に主治医と臨床心理士がしっかり連携を取れることはとても大事です。
ある方についてのサポートをする上で、主治医と臨床心理士の両者がしっかり見ている方が、その方にとっての安心が大きいのは言うまでもありません。

自画自賛で恐縮ですが、私と有井先生はとても良いチームだと自負しています。

しかし、多くの臨床心理士にとって、主治医に気軽に相談するのはそれほど簡単なことではないようにも感じます。
「こんなことを伝えて大丈夫かな?」
「忙しくて迷惑じゃないかな?」
「そんなことも知らないの? と思われないかな。」
「あなたの意見なんか聞いてない、と思われないかな」
といったように、いざ被相談者の為に必要なはずのやり取りをしようと思っても、自分を守るための思考が次々に浮かんできてしまうのです。

これは何も臨床心理士と主治医に限ったことではなく、
働いている人であれば誰でも経験することではないでしょうか。
上司や同僚に質問する時、自分の意見を言う時、職種は違ってもこういった不安がよぎった経験は誰でもあるのではないでしょうか。

ではなぜ、私と有井先生は良いチームとして機能しているのかについて考えてみます。
一言で言うと有井先生が良い先生だからなのですが、それ以外にも心理的安全性に関係するいくつかの理由があるように思います。

まず、有井先生も私も、「これはこういうもの」という専門職としての視点やアイデンティティに固執しすぎないところだと思います。
そして、しっかり相手の話を聴いて受け入れる姿勢をお互いに持っていることだと思います。
それから、必要な時に相手を頼れることだと思います。
そして何より、患者さん(被相談者)を元気にするための最善を探すという同じ目標を持っているからだと思います。

誰かと一緒に仕事をする上でとても大切なのに意外と難しいことは、「分からないことを聞く」ことだと思います。
心理的安全性が高いチームはこれができます。
心理的安全性が低いチームは、対人関係が壊れるリスクを恐れてこれがなかなかできません。

私と有井先生は、「この点についての知識が足りないから教えてほしい」だとか
「精神科医(臨床心理士)としての見立てを聞きたい」だとか
「〇〇さんのフォローをお願いしたい」だとか
「この点についてはこちらでフォローします」
というやり取りを躊躇せずに行うことができます。

医師としての専門性、心理士としての専門性、それぞれが違うからこそ、役立てあうことができます。
でも、自分の専門職としてのアイデンティティにこだわりすぎるあまり、上手に互いを活用できていないのではないかと感じるケースをたくさん見てきました。
それよりも、目の前の被相談者のためにどんな方法が最善かを職種を超えて話し合い、協力し合えることの方がずっと価値があると思っています。

さて、皆さんはどうですか?
職場の中に、取引先との関係性に、心理的安全性は築けていますか?

もし心理的安全性が低い場合、いきなりガラリと変えることはできませんが、変えるためのきっかけを、あなたがつくることはできます。
まずは、じっくりと相手の話に耳を傾ける機会をつくることだと思います。
否定せずに相手に関心を持ってみること。
当然のことのようですが、これが心理的安全性を高めるための第一歩ではないかなと私は思います。

参考文献
石井遼介「心理的安全性のつくりかた」日本能率協会マネジメントセンター 2020年