「経営者であること」に押しつぶされそうなあなたへ
経営者という立場におられると、常に決断を求められることと思います。
誰にも見せないまま、どこにも頼れないまま、「どうするべきか」を考え続ける日々。
でも本当は、どうしたらいいか分からない。
進むも止まるも正解が見えなくて、心の中がずっと霧に包まれているような感覚に陥ることはありませんか。
責任を背負う覚悟はある。けれど、時にはその重さが、言葉にならない不安として心にのしかかってくる。
それでも前を向かなきゃいけない。誰にも「苦しい」と言えない。
そんなふうに、自分の感情すら置き去りにして立ち続けている経営者の方が、本当にたくさんいらっしゃいます。
以前、ある社長さんがこう話してくれました。
「社員の未来も、家族も、全部が自分にかかっている。それが苦しいのに、『悩んでる』とも言えない。みんなを守る側の人間が、弱音を吐いたら終わりだから。」
その方は、話すうちにぽろぽろと涙を流しました。
「誰にも言えなかったから、ほっとして涙が出ちゃいました」と。
経営者にも、涙を流せる場所が必要です。
また別のある会社役員の方は、昨年突然脳の悪性リンパ腫で倒れ、手術と抗がん剤治療を経て復職されました。
けれど、病気の影響で思考や会話の速度が落ちたこと、以前と同じパフォーマンスを出せないことにひどく戸惑っておられました。
「こんな状態で取締役としての責任が果たせるのか。情けない姿を部下に見せたくない。今の自分には存在意義が見出せない」と、静かに語られました。
それでも、その方は諦めていませんでした。
前のように戻りたいと、日々ストイックに脳トレに取り組み、メンタルを保つためにこうしてカウンセリングにも足を運ばれているのです。
以前と同じようにはできないかもしれない、情けない姿を見せてしまうかもしれない。そんな思いも抱えながら、それでもなお前を向こうとする。
その姿こそ、本当の意味で「かっこいい経営者」ではないかと私は思いました。
揺らぎの中にいても前に進もうとする。その誠実さに、力があります。
「誰かに話しても、解決はしない」
そう思って、ずっとひとりで抱えてきた方も多いかもしれません。
でも、話すことには意味があります。
言葉にすることで、自分でも気づいていなかった本音に触れることができます。
感情が外に出ることで、思考にスペースが生まれます。
誰かが受け止めてくれるだけで、「ひとりじゃなかった」と思える瞬間が訪れます。
“話すこと”は、解決のためだけのものではありません。
それは、耐え続けているあなた自身の心に、静かに手を当てる行為でもあるのです。
戦略やスキル、人脈、資金のことをを「経営資源」と呼びます。
でも、忘れてはいけないものがあります。
経営者本人の「心の安定」こそ、最も見落とされやすく、そして最も大切な経営資源です。
あなたの心がすり減ってしまえば、どんな計画も判断も、思うように働きません。
逆に、あなたが落ち着いていれば、どんなに波があっても、組織は前に進むでしょう。
あなたの安定が、誰かの安心になります。
何かを決められなくても、大丈夫。
それでも毎日、考え続けている。
その姿が、もう十分に「責任」であり、「誠実」なんです。
ひとりで耐えている心に、誰かの手がそっと重なる日が、どうかありますように。
もし今、「自分のことなんて後回し」と思っているのなら。
せめて今日だけは、自分の心にお湯を注ぐように、あたたかい言葉をかけてあげてください。
「よくやってるよ。
決められなくても、何も進んでいなくても、
あなたがそこにいるだけで、大きな意味がある。」
何を話していいか分からなくても、
うまく言葉にできなくても、大丈夫。
あなたのそばに、私たちはいます。