強迫性障害を乗り越える~曝露反応妨害法の実践~

今回は、強迫性障害の方のカウンセリングについて、ご本人の了承を得たのでご紹介します。

「強迫性障害」とは、強い「不安」や「こだわり」によって日常に支障が出る病気です。
「ドアに鍵をかけたか?」「鍋の火を消したか?」と、不安になって家に戻って確かめたなどという事は多くの人が経験することです。また、数字などにこだわることもよくあります。
戸締まりや火の元を何度もしつこく確認しても安心できなかったり、特定の数字にこだわって生活が不便になったりしている場合「強迫性障害」とされます。

この方の場合は、「ばい菌がついている」「汚れてしまう」という強迫観念により、物や衣服を過剰に拭いたり洗ったりするという強迫行為が現われています。
そのことに時間を費やすことが多く、日常生活の時間が強迫行為に取られて疲れてしまったり、友人との外出における自分の振る舞いが気になったり、旅行に行きたくても行けないなどの課題を抱えています。

この方のカウンセリングでは、不安の高いものから低いものまでをリスト化し、その時に浮かんでくる強迫観念と強迫行為も含めて不安階層表を作成しました。

この方の課題のひとつに、パンやおにぎりを素手で触れないというものがあります。
たとえばパンであれば、パンが入っていた袋は誰かが触っているものです。自分がパンを食べるには、その袋を開けなければならないので、自分の手にばい菌がついてしまいます。
その手でパンを食べると、自分の手からばい菌が自分の口に入ってしまうと考えるのです。
そのため、これまではパンを食べる場合は、箸でパンをつまんで食べていたそうです。

先日、この課題に取り組みました。
カウンセリング中に、カウンセラーと一緒に箸を使わずに素手でパンを食べるという課題です。
パンだけでなく、ペットボトル飲料も同様の理由で避けていたので、パンと一緒にペットボトルの飲み物を飲んでもらうことも行いました。

実施前は、「できるかできないか分からない」「最後までは食べられないかもしれない。指がパンに触れている部分だけがどうしても難しい」とのことでしたが、食べ始めると、「いけそうな気がします」と仰り、最後まで完食することができました。

ご本人が感想をくださいました。
「なぜやってみようかと思えたかというと、先生に一緒にやってみましょうと言われたからだと思います。
一緒に食べなかったらできなかったと思います。なぜかここだと安心するというか。
自分一人だとやってみようと思えなくても、先生に大丈夫ですと言われると、やってみようかなと思えて、やってみたら「あ、いけそうじゃん」と思えて、自然に自分のこだわりが溶けていく感じがしました。
パンに触った時の感触で、回避している時の感覚と違う気持ちになれたんです。今まで回避することに使っていたエネルギーが切り替わって転換されていく感じがしました。
同じような病気で悩んでいる人がいるなら、勇気を出してカウンセリングに行ってみた方が良いですよと言いたいですね。
回避を解決したいと気持ちを行動に移すのは自分自身なんだけど、やってみようという気持ちになれるから。」

達成後は、ぱっと明るい表情になっていたのが印象的でした。
「次はおにぎり(ご本人にとってさらにハードルが高い)に挑戦します」と言って意気揚々と退室されました。

カウンセリングの時間の中で実施したのには理由があります。
強迫性障害の方の特徴として「回避」してしまうということがあります。
ご本人にとって苦痛な状況なので、どうしてもそれを避けることで対処しようとするのですが、回避が逆に症状を拡大させてしまうのです。
ですので、敢えて回避しているものに直面させていかなければなりません。

ご本人にとって非常に不安が高いことをひとりでやってきてとお伝えしても、多くの方が何かしらの回避が発生し、できないことが多いように感じます。
ですので、敢えてカウンセリングの中で行いました。
「専門家がいるから大丈夫」でも
「そのための時間を取ってもらったのだから逃げられない」でも
「ここでならできる気がする」でも
意味づけは何でも良いのですが、不安なことに挑戦するための時間にカウンセラーがつき合うことは大切だと思っています。

最初の一歩が最も大変なのですが、その一歩は何が何でも本人がひとりで頑張らなくても良いのではないかと私は思います。
最初の一歩を踏み出すのが怖いからなかなか挑戦ができない。
それならば、私はその一歩が踏み出せるように寄り添ったり励ましたりつき合ったり……心理士としてこうあるべきという自分自身の価値観に捉われすぎることなく、柔軟にサポートしたいなと思っています。

おにぎりを手で直接掴んで食べるという課題も達成しました!